わたし好みの新刊    201511

『アユは四季を泳ぐ』  大野平祐/文 石黒しろう/絵   文芸社

 アユの一生を物語風に描いた「読み物」である。石黒しろうさんの絵が,それぞ

れの場面にそって淡いタッチで美しく描かれているアユの絵物語でもある。

 「新春の海」の絵からページは始まる。河口近くで生まれたアユの仔魚は河口近

くに群れる。海の旅の始まり,浜辺近くでしばらく仔アユは過ごす。「エサとなるプ

ランクトンが豊富にあります。浜辺に近い海の中は、まさに大きなゆりかごです。」

と書かれている。春になるとやがて稚魚に成長し、エサと住む場所を求めて稚アユ

たちは川をさかのほる。アユにとって「春は海から川へ、旅立ちの季節」である。

やがて稚アユは河口へ,ここで稚アユたちは川の生活になれる。しかし,ここまで

くると危険もいっぱい,大きな魚が口を開けて待っている。うまく外敵をかわしたア

ユたちはやがて上流へ向かう。途中には大きな堰もあるが魚道をはねて上っていく。

このころになると,体色も銀白色から告Fへ,黄色い斑点も目立ち藻を食べる口に

変わっていく。川の中流域に来ると,なわばり宣言もして自分だけのえさ場を確保す

る。暑い真夏の太陽がさしこむ頃,長い釣り竿を持った人間がやってくる。見慣れ

ぬ仲間をうかうか追いかけると人間の釣り針に引っかかってしまう。夏の川では、

アユにとって人間が一番の外敵である。秋から冬になると,アユはやがて「婚姻色」

へ、下流域で産卵を終え一生を閉じる。

物語絵本ではあるが,例えば「アユの受精卵の大きさは、直径約1ミリメートル

ほど。球形で透明なアユの受精卵は、粘りけがあるので、流されることなく…」と,

個々の成長過程についても正確に綴られている。「生命の躍動と儚さが凝縮された

アユの一生。移りゆく季節を生きるアユたちの物語」であると帯にある。 

                       2015,4刊 1,100

 

『カタツムリの謎』  野島智司著   誠文堂新光社

著者は、ネイチャーライターとしてかなり知られている人で,子どもの遊びに関する

活動もされている。幼少期からカタツムリが好きという変わり者らしく,今も自然環境

の大切さを広める活動をされている。それだけに文章も読みやすいく興味をそそられる

内容にまとめられている。

カタツムリは他の生き物に比べて移動能力がきわめて低いために,各地の固有種が

多い反面,環境変化の影響を受けやすく,絶滅に追いやられる生き物でもある。この

本では,そのようなカタツムリの知られていない習性について,たくさん紹介されている。

「カタツムリ」と一言で言っても,生物学的にはややこしいらしい。まあ,それは学者

に任せて,殻を持つ陸生生物と見て楽しめばいいようだ。まずは,カタツムリの「ツノ

の役割」はなんだろうとある。「ツノ」と言っても大小2本ずつ,「大」の方には目玉

があるようだが明暗を感じる程度とか。「小」の方は味や匂いを感じているとか。なん

といっても不思議なのは「カタツムリの口」。()(ぜつ)と呼ばれていて,小さな歯が何列に

も並んでいる構造をしているらしい。そういえば,カタツムリの食べ跡を見ると何かで削

ったような跡が見える。白菜などを食べているときは「ザリ,ザリ」と音がしているとか。

ほんとだろうか。

カタツムリは移動手段が這うだけなので固有種が多く,各地の固有種が紹介されてい

る。近くの山などでカタツムリを見たら確認するのもおもしろそう。新発見があるかも。続

いて「かたつむりのおもしろ生態」「周辺生物との関わり」と,カタツムリのあまり知ら

れていない習性などがたくさん紹介されていく。最後の「ヒトとの関わり」もおもしろい。

「まいまい」の由来はなんだろうか。最後にカタツムリの科学読み物も紹介されている。

この本ならではのまとめである。

                        2015,06刊  1,500(西村寿雄)

          「新刊案内11月」へ